室内における背景と物体の分離

森田順也

1  はじめに

 画像処理によって画像中の移動物体を検出する手法の一つに背景差分法があり、背

景が変化しない場合には有効な手法であるが、対象物とともにその影も変化領域とし

て検出してしまうという欠点がある。

室内では、影領域が画像中で大きな面積を占める場合が多く、人物追跡やジェスチャ

認識を行う際にこの影が影響を及ぼすことがあり、前処理として対象物と物体を分離

することが重要となる。また、照明変化により背景画像の変化が起きた場合には背景

差分法は適用できないという問題点もある。

 本研究では、室内の複数光源環境下における影の除去と照明の明るさ変化への対策

について考察し、影の影響を考慮した背景差分法を提案する。

 

2 影を考慮した背景画像のモデル化

 画素値は、各光源の光量に起因するエネルギーの線形和で表わすことができる。画

素jの画素値をEjとし、光源iから画素j

へのエネルギー量をLijとすると、以下の式が成立する。

    Eij = ΣSijLij      (1)

ここで、Sijは光源の遮蔽関係及び照明強度比を表わすパラメータであり、0〜1の

値をとる。このモデル化により、背景は各光源による背景成分Lijによって表現でき

る。

よって、その背景成分を各画素で予め推定しておけば、パラメータSを変化させるこ

とで、影及び照明変化に対応した任意の明るさの背景を合成できる。

 

3 影を考慮した背景差分法

 実験では、簡単化のため2光源の場合を扱う。まず、光源の明るさを変化させた背

景画像が2枚以上あれば、式(1)の連立方程式より背景成分が推定できる。この背景

成分はRGB空間中の2つのベクトルで表わされるため、その2つのベクトルで作られ

る平行四辺形の4辺と観測値との最短距離を特徴量として用いれば、影を考慮した背

景差分が行える。

 

4 実験結果

 実画像に対して本手法を適用することで、影の影響を抑えた背景差分が行えること

を確認した。また、撮影状況を変化

させた9枚の画像対して本手法を適用し、目視により物体抽出を行った結果との比較

を行うと、物体検出率86.8%、物体誤検出率1.3%という結果が得られた。

 

5 結論

 本研究では、影を考慮した背景画像モデルを定義し、従来の背景差分法の欠点であ

った影の影響を低減する手法を提案した。そして、実験により本手法の有効性を確認

した。

今後の課題としては以下のものが考えられる。

・  黒い物体の検出漏れへの対策(環境光の考慮)

・  空間的相関関係の考慮

・  照明推定方法の改善

・  相互反射の対策

また、複数人物を撮影することによる影響や、複雑な背景の場合の影響なども調べる

必要がある。