題目:肌色情報を用いた複数人物追跡 

氏名:谷内田研究室 松村 朱里

 

<概要>

1.はじめに

 本研究は肌色情報を用いて画像中の人物領域を抽出し,人物の追跡を行うことを目

的としたものである.肌色モデルを作成することによって学習されていない人物の抽

出も可能となるうえ,人物に異和感を与えることなく追跡することができる.

 標準的な画角をもつカメラでの撮影は視野角が狭いため,複数人物を同時に撮影す

ることが難しい.また,そのようなカメラでは人物がすぐに視野から外れてしまう恐

れがある.そこで,本研究では周囲360度の撮影が一度に可能である全方位視覚セン

サを用いて撮影を行う.この全方位視覚センサを用いることで広視野角の映像が得ら

れるので,複数の人物を長時間に渡って観測することが可能となる.しかし,全方位

視覚センサからの入力画像は単位画角あたりの解像度が低いため,全方位視覚センサ

を用いての人物の追跡は一般に背景差分法などを用いることが多い.本研究では こ

のような条件の中で肌色情報を用いることでどの程度まで人物領域が抽出可能かを計

測する.そして、その肌色情報を用いることで人物特徴を取得し,人物領域の前後関

係を考慮することにより重なりを含めた複数人物の追跡が可能な手法を提案する.さ

らに,実画像を用いて本手法の有効性を検討する.

 

2.システム構成

 人物追跡処理は,人物抽出部と人物追跡部で構成される.これより本手法をそれぞ

れの部分に分けて説明する.

2.1 人物領域の抽出

 人物領域の抽出は肌色モデルと背景モデルを用いて行う.

 同じ人種の肌色は色空間上である程度まとまった分布をとることが分かっている.

従ってこのカラー分布を予め作成しそれを利用することで人物領域を抽出することが

できる.サンプル画像より肌色画素のその平均と分散を求め正規分布に従って肌色モ

デルを作成し,各RGBに対応するカラーテーブルに値を格納する.また,背景モデル

は背景に肌色に似た物体がある場合に対応する.背景モデルは背景画像の各画素の

RGB値を平均とした正規分布に従って作成する.

 肌色情報による尤度と背景情報による尤度を合わせて最終的な肌色らしさの尤度を

求め,肌色領域の重心を求める際の重みパラメータとして利用する.

2.2 人物領域の追跡

 本研究では重なりを含めた複数人物の肌色領域を追跡していく.本システムでは各

人物領域に対応するクラスタを用意し,それぞれのクラスタは重心位置,速度,状態

などの情報を保持している.

 肌色領域の追跡にはカルマンフィルタを用いる.また,フレーム間での各クラスタ

の識別評価にはテンプレートマッチングを用いる.肌色物体による隠れと肌色物体で

ない物体による隠れとでクラスタの状態を変えることで,テンプレートを有効に活用

する.

 

3.人物領域の発見と追跡の実験

 ハンディカムカメラに全方位視覚センサをとりつけ撮影を行った.複数人物に独立

に移動してもらい,その様子を10分間撮影した.それぞれ肌色モデル作成に用いられ

た人物と用いられていない人物とが混在する.撮影場所は屋内で基礎工学部の廊下で

行った.

 結果として,本システムでそれぞれの人物を安定に抽出し,追跡できることが確認

された.

 

4.結論

 本報告では,全方位視覚センサを用いた撮影画像から肌色情報を用いることにより

人物領域の切り出しを行い,追跡する手法について報告した.全方位画像は単位画角

あたりの解像度が低く色情報が適切に得られない場合があるが,前フレームの情報に

よって補間することで人物の切り出しが適切に行なわれることが確認できた.また,

テンプレートを用いることで各人物の識別が可能になることが確認できた.

 今後の課題として,人物がカメラに対して後ろを向いてしまった時に肌色が抽出で

きなくなってしまうので,その場合への対応と,顔の向き推定を行う予定である.