タイトル:マルチメディアを用いた子供たちのコミュニケーション支援環境の検討

学籍番号:90140033

所属研究室:西田研究室

氏名:金森 一樹

 

 

1.序論

本研究では精神的・肉体的に障害を持つ子供たちをサポートする環境の構築を目指し

ている.障害は大別して肉体的なものと精神的なものに分けられるが,この両者に治

療という観点からアプローチすると非常に局所的なシステム構築を行わざるを得な

い.そこで本研究ではコミュニケーション支援という観点からアプローチし,健常も

しくは障害を持つ子供たちが相互にコミュニケーションを行っていく中で遊びを発見

し,コミュニケーションに喜びを覚えることができるシステムの構築・検討を行う.

 

このようなシステムに必要とされる要素の多く,例えば対人恐怖の抑制,運動機能の

補完,集中力を養う要素,問題提起レベルの変更などは電子的に構築されたマルチメ

ディア環境を用いる事によって解決されることが数々の関連研究より証明されてい

る.

 

そこで本研究ではコミュニケーション支援環境の構築にマルチメディアを用いること

を提案する.

 

2.マルチメディアを用いた子供たちのコミュニケーション支援環境

インタフェースの構築に際し,子供が多数参加し,またそこでのコミュニケーション

を支援するということを考慮し,以下の問題点があると考えた.

 

・他人と直接,視聴覚を通じてコミュニケーションを行わない.

・しかし,インタフェースを通じて他の存在を感じることができる

・インタフェースを用いて行う作業には,目的や達成感がある.

・作業を達成するためには,インタフェースを通じた協調もしくは共同作業を必要と

する

また,過去に参加した関連研究から,年齢の低い子供程以下のような傾向にあること

が分かっている.システム構築には,上述の問題点とあわせて考慮する必要がある.

 

・複数の操作が同時にできない

・環境の変化を理解できない

・論理的な物の見方ができない

 

3.システム・アーキテクチャ

前章で言及した条件を元に自分のアバターを操作して相手と音楽を共有・成長させて

いくシステムを構築した.他人を感じ,ゲームへの没入感を増してもらうために,

ユーザの表現方法としてアバターを用いた.子供の集中力を高めるべくシナリオには

ゲーム性を含め,また音楽の成長に伴い映像も変化していくよう設計を行った.さら

にユーザが協力することで進行が円滑になるシナリオ設計を行い,協力の形のコミュ

ニケーション支援を狙いとした.

 

システムは入力インタフェースにゲームパッドを採用,映像部はOpenGL,音楽部は

MAXを用いて作成し,相互間の通信はMIDI信号を用いて行っている.

 

4.評価実験と結果

実際に健常な小学校高学年の子供に参加してもらい,構築したシステムの評価実験を

行った.子供たちをシステムについての説明を与えない被験者A群と説明を与える被

験者B群に分け,両群に対しシステムの理解力,システムへの集中力について比較評

価を行い,参加型インタフェースとしてのシステムの評価・考察を行った.また,こ

ちらがコミュニケーションを取るようシナリオに意図して含んだ要素に対し,子供た

ちはそれに沿ってコミュニケーションを行うのか,それとも全く別の方法でコミュニ

ケーションを取るのか,A群とB群の組み合わせ方による比較実験と実際の観察結果

よりコミュニケーション支援環境としてのシステム評価・考察を行った.

 

評価実験の結果,マルチメディア環境を用いることがコミュニケーション支援環境の

構築に意義を持つことが分かった.しかし,何も説明無しでシステムに参加した場合

何をして良いか分からない,映像変化が分かりにくいなどシステムの改善すべき点も

多く浮き彫りにされた.

 

5.結論

子供たちのコミュニケーションを支援する環境としては,事前に用意したシナリオに

沿ってコミュニケーションを取ってもらう環境よりも,自由な空間の中でコミュニ

ケーションの方法を子供自身に見つけさせる環境の方が望ましいことが分かった.

 

本研究は健常もしくは障害を持つ幼稚園〜小学校程度の年齢層の子供の支援を目標と

しているが,今回の実験の被験者の年齢層は小学校高学年と,本来の対象である子供

達と比較して理解力が高い.今後は,今回の実験で示された問題点と児童心理学を考

慮し,より広い年齢層と障害を持つ子供を対象にシステムの検討を行い,より多くの

問題点を見い出しさらなるシステムの改善と評価実験を行っていく.