卒論タイトル:不都合検出に基づくグループ知識獲得の一方式

学籍番号:90100083 氏名:竹中寿啓 所属:西田研究室

 

1.はじめに

 近年システムは大規模複雑化しているにもかかわらず,設計や運用の現場では

マニュアル化によってエキスパートが減少している.また設計チームが大規模で

分散化しつつある現状においては,設計過程における相互の意思伝達も問題となっ

てきている.こういったことから近年グループとしての知識の伝承が重要になっ

ているが,そのためにはグループにおけるメンバー各自の知識を統合する際に発

生するいくつかの問題を解決する必要がある.

そこで本研究ではこれらの問題の中でメンバー間の知識の相違に着目し,その検

出方法について考察を行う.具体的にはメンバー各自の経験した事例を足しあわ

せて決定木を合成し,この決定木に対して各自の領域知識を用いて説明付けを行

う.この時説明ができない事例を「不都合」と呼ぶ考え方に基づき整理しメンバー

各自に提示を行う.これにより最終的にグループとしての整合性のとれた知識が

導けることを目標とする.

 

2.システム概要

 本研究のシステムは,まず2人のユーザがそれぞれ事例集合と領域知識を用意

し,2つの事例を足し合わせて決定木を作成する.そして作成した決定木に対し

てそれぞれの領域知識を用いて不都合を検出し,検出された不都合を用いてユー

ザに質問を行い不都合の解消を求める.

本研究では,領域知識を条件部と判断部のif thenルールの形で定義し,決定木

の各パスと属性・属性値の組み合わせが一致するかどうかによって説明付けとす

る.この領域知識の形式から本研究での不都合を以下のように定義する.

[不都合]

 (1) 決定木の条件に2つの領域知識の条件が完全に一致して,判断が領域知識A

と領域知識Bで同じであり決定木とは異なる場合

 (2) 決定木の条件に2つの領域知識の条件が完全に一致して,判断が領域知識A

と領域知識Bで異なり決定木がどちらかと同じである場合

 (3) 決定木の条件に2つの領域知識の条件が完全に一致して,判断が領域知識A

と領域知識Bと決定木とで3つとも異なる場合

 (4) 決定木の条件に1つの領域知識の条件が完全に一致して,判断が領域知識と

決定木で同じ場合

 (5) 決定木の条件に1つの領域知識の条件が完全に一致して,判断が領域

知識と決定木で異なる場合

 (6) 決定木の条件に領域知識の条件が完全には一致していないが,一部一致し

ている知識が存在した場合(条件不足)

 (7) 決定木の条件を全て含みかつ他の条件が含まれている領域知識が存在した

場合(条件過剰)

 

3.適用例

 モータの故障診断に対する2人の事例と2人の領域知識を用いて実際に不都合検

出を行った.具体的に例をあげて説明すると,不都合(1)が検出されている決定

木のパスが存在した時,実際入力した2人の領域知識を確認するとA氏B氏ともに

 「条件if(Temperature : Normal)(Current : Stable)(Amplitude : inc)

判断then Unbalance

となっていた.しかし,その時の決定木のパスでは,

 「条件if(Temperature : Normal)(Amplitude : inc)(Current : Stable)

判断then Rigidity

となっていた.従って2人の判断と決定木の判断が異なることを示す不都合(1)が

検出されていた.これにより正確に検出されていることが確認された.

 

4.おわりに

 本研究では複数の知識を統合する際に生じる問題点を検出するシステムのプロ

トタイプを作成し,いくつかの例を与えて実験を行い,不都合が検出されること

を確認した.

 今後は実際の問題に対してシステムを適用した場合の有効性の検証や,その結

果生じる問題に対して新たな「不都合」の検討などを行う予定である.