2000年度修士論文概要

学籍番号 90498051 所属研究室 谷内田研
氏名 間 下 以 大
タイトル 個人識別システムにおける特徴量の評価
1. 緒論
 顔認識システムは,ヒューマンインタフェースやセキュリティ応用などのために研究されてきた.これらのアプリケーションでは,入力画像を効率的に処理することが要求され固定した見え方の顔に対する認識の技術は既に実用レベルに近付きつつあると言え,最近では,任意の見え方に対してロバストな認識を実現させることが議論の中心となってきている.なかでも,ガボールウェーブレット特徴量を持つグラフを利用する方法は,顔の向きや大きさ,表情の変化に対してある程度ロバストな認識を行うことができる.
 そこで,本研究では,平山らによって提案された,ガボールウェーブレット変換を用いた,スケール変化にロバストな個人識別システムにおいて,入力画像のスケールが変化した場合などの認識率の改善を目的とする.ガボールウェーブレット特徴量は方向成分と周波数成分を持っており,その特性と顔特徴点を利用することで,情報量の圧縮や認識率が改善することを実験で示す.
2. 個人識別システム
 この個人識別システムは,目尻,眉毛の端,口元などといった30個の特徴点を抽出し,それらの特徴点においてガボールウェーブレット変換を行うことで特徴量を求めている.ガボールウェーブレット変換は周波数成分と方向成分をもったガボールカーネルとの畳み込みによって行われる.なお,このシステムでは5段階の周波数×8方向=40種類のガボールカーネルを用いている.そして,特徴点をノードとした完全グラフの特徴量とノード間の距離を登録されている顔モデルと比較することで認識を行っている.
3. 問題点とその原因
 目の周囲などはテクスチャが細かいため,ガボールカーネルが高周波では特徴点抽出の際におきる数画素程度の位置誤差で特徴量が大きく変動する可能性がある.
 しかし,特徴点の位置による特性を利用することによって,認識率をさらに向上させることが可能であると思われる.また,無駄な情報を省くことができ,認識率を落とさずに顔モデルデータを圧縮することができるものと思われる.
 本研究では,このシステムで用いる特徴量のスケール変化に対するロバスト性と,それらが認識率に与える影響を調べる.また,このシステムの認識率の改善と情報量の圧縮を目的として特徴点の特性を調べ,その特性を認識率によって評価する.
4. 評価実験
 入力画像のスケールが,登録されているモデル画像と異なる場合,特徴点によってはその特徴量が大きく変化すると思われる.その結果,登録画像の特徴量との差が大きくなり,認識率が低下すると思われる.しかし,どの特徴点が認識率の低下に大きく影響を与えているかわからない.そこで,使用する特徴量に制限を加えた認識実験を行うことで特徴量の特性を評価する.
4.1 入力画像のスケール変化に対する特徴点のロバスト性の評価
 目の周囲や,口の周囲といった特定の領域の特徴点を用いずに認識実験を行う,その結果を比較することで入力画像のスケール変化に対する特徴点のロバスト性を評価する.
 評価実験を行った結果,目の周囲の特徴点を用いない方が認識率が良いことがわかった.つまり,目の周囲の特徴点は入力画像のスケール変化に対する個人識別の際にはマイナス要素になるということである.この原因として,特徴点抽出の際の位置誤差が特徴量に大きな影響を与えているものと思われる.そこで,この仮説に対する検証実験を行った.実験方法として,手で抽出した特徴点の位置を真値として,その周囲に特徴点がずれた場合のガボールカーネルの応答を求めた.
4.2 特徴量の特性の評価
 各特徴点においてガボールカーネルの応答を調べたところ,周波数の高いカーネルの応答が大きい傾向がみられた.また,特徴点の位置によってカーネルの応答が大きい方向と小さい方向があることがわかった.そこで次のような認識実験を行った.
・認識に使用する特徴量の周波数成分を高周波のみと低周波のみに限定した認識実験.
・各特徴点の特徴量の中でカーネルの応答が大きい4方向を用いて認識実験.反対に,カーネルの応答が小さい4方向を用いた認識実験.
5. 結論
 4.1の実験を行った結果,この個人識別システムにおいて,目の周囲の特徴点は入力画像のスケール変化に対して不安定であり,認識率を低下させる原因となっていることがわかった.また,その原因として,目の周囲の画像は顔画像の中でもテクスチャが細かい(周波数が高い)ために,特徴点抽出の際の誤差による影響が大きいことがわかった.
 4.2の評価実験を行った結果,特徴量の方向成分については,すべての方向成分が重要であることがわかった.周波数成分による特性に関しては,高周波のガボールカーネルによる特徴量の方が個人識別に与える影響が大きいということがわかった.しかし,現在のシステムでは入力画像のスケール変化に対して認識率の低下が激しく,情報量の圧縮は難しいことがわかった.また,高周波のガボールカーネルを利用するということは,4.1の実験で得られた,位置抽出の誤差による影響の大きい特徴量を利用することでもある.つまり,位置抽出の精度が悪いと逆効果となりかねない.しかも,今回の認識実験で認識率が低下した原因には,ガボールカーネルの正規化が行われていないことや,特徴点抽出の誤差が影響していることも含まれている.つまり,現在のシステムにおいて優先すべき課題はガボールカーネルの正規化と,特徴点抽出の精度を向上させることであると言える.