2000年度修士論文概要

学籍番号 90437048 所属研究室 田村研
氏名 村 上 安 彦
タイトル ニューラル・ネットワークを取り入れたコンジョイント分析の提案
1.はじめに
コンジョイント分析は多属性価値評価手法であり,非利用価値の評価が可能なことから近年環境評価分野への応用が期待されている.しかし、本手法では効用関数を線形であると仮定しているためにさまざまな問題が生じる.
そこで本研究では,その問題の一つである属性の選好独立性の仮定に着眼し,コンジョイント分析にニューラル・ネットワークを取り入れることにより,属性間の交互作用をも考慮した評価を行うことができる手法を提案する.


2.コンジョイント分析
コンジョイント分析ではまず,評価対象をいくつかの属性に分類し,プロファイルを作成する.そして,それらを用いて質問票を作成し,アンケートを実施する.ここで,コンジョイント分析はその質問形式によりいくつかの形式に分類されるが,本研究ではその中でも現実の購買行動に近いという利点をもつ選択型実験を取り上げる.
そして,そのアンケート結果をもとに選択確率に関する対数尤度関数を最大化することにより効用関数を線形関数として推定する.さらに評価したい属性のパラメータを貨幣価値のパラメータで割ることにより,各属性の価値を算出する.


3.提案手法
提案手法では,まずコンジョイント分析と同様の方法でアンケートを行う.その結果から対数尤度関数の最大化により,非線形性を含む効用値Vをそのまま求める.そして、この効用値をニューラル・ネットワークの教師信号とし,さらにそのときの属性レベルを入力として,学習を行うことにより効用関数を推定する.


4.推定結果と今後の課題
今回データとして用いたアンケートは2000年夏季に行ったもので,その内容はレクリエーション形態(山地型、丘陵型),遊歩道,デイキャンプ,レストラン・売店,アスレチック,時間,旅費の7属性で構成されたプロファイルに対する選好である.
まず,入力層,中間層,出力層のユニット数が8,8,1の3層からなる階層型ニューラル・ネットワークを想定し,入力〜中間層の重みが1対1対応となるような8本だけで学習させた.そしてその重みを初期値とし,残りの重みを付加して忘却学習を行ったところ,全重み64+8=72本中42本を削除して学習が終了した.そして,レクリエーション形態が丘陵,時間が60分,旅費が3000円である仮想サイトにアスレチックを追加したときの価値を算出した
結果,2100円であった.また,このサイトに遊歩道が存在したときのアスレチックに対する追加的価値は2400円,同様にキャンプもしくは売店が存在したときの追加的価値がそれぞれ,900円,1600円となった.さらにレクリエーション形態を山地とした場合は-600円であった.これは,どのような状況でもすべて同じ価値となるコン
ジョイント分析とは明らかに異なる結果である.すなわち,提案手法では,属性間の交互作用を考慮に入れた評価が行えることが明らかとなった.
また,実在のサイトを用いて,そのサイトに存在しない各施設の価値を算出することで,新たに交互作用を考慮した施設導入順位が明らかになり,マーケティングへの応用可能性が示された.
今後,さまざまな対象に対して提案手法を用いることで有効性の検証と信頼性の向上を図ること,コンジョイント分析の問題点である過大評価の解消などが課題となる.