2000年度修士論文概要

学籍番号 90428018 所属研究室 田村研
氏名 笹 野 直 幸
タイトル 税収還元効果を考慮した炭素税の政策デザインとその評価
1.課題設定
京都会議(COP3)において二酸化炭素削減目標が決定されるなど,地球温暖化防止への国際的な取り組みが始まっている.
これを受けて,日本の対策としては炭素税の導入がなされる見通しとなってきたが,産業間格差の是正,国際競争力の維持などの課題がある.また国際的な排出権取引制度には消極的な姿勢を示している.

そこで本研究では,削減目標達成のため以下のようなシナリオを設定する.

シナリオ1:炭素税を導入する.
シナリオ2:炭素税を導入し,得られた炭素税収を消費税に一律に還元する.
シナリオ3:炭素税を導入し,得られた炭素税収の一部で排出権を購入する.
シナリオ4:炭素税を導入し,得られた炭素税収の一部で排出権を購入し,
      残りを消費税に一律に還元する.

そして炭素税に関するモデルを構築し,産業界に及ぼす影響の観点から税収還元効果を考慮した政策を評価する.

2.炭素税評価モデル
本研究では日本,米国,英国,仏国,独国の先進5カ国を分析の対象とする.本モデルでは各国の利潤最大化行動を表現した上部構造と,国内取引,国際取引を表現した下部構造からなる.国内取引では輸出量の変動および国内最終需要の変
化に対応して,利潤最大化行動に基づき生産量,二酸化炭素除去率,付加価値率を決定する.国際取引では,先進5カ国間取引は利潤最大化行動に基
づき輸出量を決定し,対象外の国向け輸出に関しては,国内取引と同様に扱い,対象外の国から先進5カ国および対象外国間取引は所与とする.

3.シナリオ分析
シミュレーションし、得られた結果を分析する.得られた炭素税収を消費税に還元した場合(シナリオ2)は各部門利潤は増加しているが,産業間格差が広がる.排出権を購入した場合(シナリオ3)は各部門利潤は増加し,産業間格差が縮まっている.つまり,課題である産業間格差の観点から見ると,排出権取引制度に参加することは有効な政策であるといえる.また投資効率の観点より,排出権購入費用として炭素税収を還元
したほうがはるかに効率が良い.つまり,投資効率の観点からも排出権取引制度に参加することは有効な政策であるといえる.

ここで,シナリオ4を見ると産業間格差が縮まり,さらに利潤が増加している.本研究で用いたシナリオの中ではシナリオ4が最も有効な政策であるといえる.

また,国際競争力の観点から見るため,日本だけ排出権取引制度に参加しない場合を想定した.この場合,日本(産業全体)としての利潤は,参加する場合(シナリオ2)と比べて約1%程度低下する.これは不参加による国際競争力の低下を意味し,この点からも排出権取引制度への参加は有効な政策であるといえる.

4.今後の課題
今後の課題としてはCOP3における付属書I国規模への拡張,さらなる税収還元方法との比較があげられる.