2000年度修士論文概要

学籍番号 90189082 所属研究室 藤井研
氏名 佐々木 康 朗
タイトル パラメータ依存行列不等式の数値解法について
1. はじめに

ある有限区間 I で定義されたスカラパラメータthetaを含む, 行列微分不等式を考える.

(1) T1(theta) (d theta/dt) (d X(theta)/d theta) S1(theta)
+ S1^{T}(theta) (d theta/dt) (d X(theta)/d theta) T1^{T}(theta)
+ L(X(theta)) < 0

ただし, LはX(theta )に関してアファインな行列関数, 不等号は行列の負定値性を意味する. このような行列微分不等式は, たとえば, LPVシステムにおける安定解析, L2ゲイン評価, μ解析などにおいて解く必要が生じる.

ところが, パラメータのとりうる値のすべてについて行列不等式を解かなければならず, これは無限個のLMIを解くことになる. 解法として, これまでにいくつかの研究がなされているが,必要十分性を満たす解法はない.

本研究では, このようなパラメータに依存した行列不等式について, フーリエ級数展開を用い, 展開の次数Nに対して必要十分条件を得た. Nを無限大にすれば, フーリエ級数の性質から, 連続関数は任意の精度で書けるので実用上は十分な精度の解を得ることができる解法が得られたことになる.


2. 可解条件の導出

まず, 式(1)のT1(theta), ..., X(theta)をパラメータthetaのフーリエ級数展開で表現する.

(2) T1(theta) = ... + T{-1}exp(-j theta) + T{0} + T{1}exp(j theta) + ...
X(theta) = ... + X{-1}exp(-j theta) + X{0} + X{1}exp(j theta) + ...
(jは虚数単位)

このとき, X(theta)の微分の項は, 項別微分により

(3) (d X(theta)/d theta)
= ... + (-j)X{-1}exp(-j theta) + j X{1}exp(j theta) + ...

となる. これらを式(1)に代入して係数をまとめると,

(4) F(theta) = F{-N}exp(-jN theta) + ... + F{-1}exp(-j theta)
+ F{0} + F{1}exp(j theta) + ... + F{N}exp(jN theta)

この係数には
F{k}はX{i}(i = 0,±1,...,±N)に対してアファイン
F{k} = F{-k}^{*}
という性質を持つ.
強正実補題を用いると, 式(4)の必要十分条件は, 次のLMI条件を満たす複素行列P = P^{*}が存在することとなる.

(6) | A B |^{*} | P 0 | | A B | | 0 C^{*} |
| I 0 | | 0 -P | | I 0 | < | C D + D^{*} |

ただし,

(7) C = | F{-N} ... F{-1} |

D = | F{0}/2 |

A = | 0 I |
| 0 \ |
| \ I |
| 0 |

B = | 0 |
| : |
| 0 |
| I |

とおく.


3. 数値例

ここでは, 前節で導出した可解条件に基づいて, 正しく解が得られることを確認し, その精度について調べる. 解析的な解がわかっている, スカラパラメータ依存Riccati不等式の要素を次のようにする.

min gamma,
s.t. 1/gamma^{2} b^{2}(theta) x^{2}(theta)
+ 2a(theta) x(theta) + c^{2}(theta) < 0
x(theta) > 0
(d theta/dt) = 0, theta = [0, 1]

a(theta) = b(theta) = -5.0 + 4.0 cos(theta pi)
c(theta) = 1.0


この問題を解のフーリエ展開の次数を上げながらgamma(L2ゲイン)最小化問題を解いた.このとき, Riccati不等式を2次不等式とみて, 頂点を考えると

(8) gamma_opt = 1.0, x_opt(theta) = -1/b(theta)

となることがわかる. 次数を上げるにつれてgammaがどのように減少するかを調べた.その結果, 次数を上げるとgammaは急速に1に近づいており,
予想通りの結果が得られた. しかも, 次数をあまり上げなくても近づきかたは速い.

またgamma最小化問題を解いたときの解x(theta)は次数を上げるにつれて-1/b(theta)に近づいていた. -1/b(theta)は有限次数のフーリエ級数では表せないが, 次数を上げていけばいくらでも収束していく. ゆえに, -1/b(theta)をフーリエ級数で表すのに十分な近似精度を持つ次数が, 問題を解くときに必要な次数だと言える.


4. 結論

パラメータ依存行列不等式に対して, 有限次元のフーリエ級数展開を行ない, それと必要十分条件となるLMI条件を導いた. そして, 実際にそのLMI条件を用いてgamma最適化問題に適用した.その結果, 次数を上げれば解が最適値に収束することを確認できた. パラメータをベクトルに拡張することを今後の課題としたい.