2000年度修士論文概要

学籍番号 90179174 所属研究室 西田研
氏名 山 岸 靖 典
タイトル 音楽の構成に注目した感性協調型演奏システム
1. はじめに
近年様々な観点から協調型合奏システムの研究が行われている.我々はこれまでにも演奏者の感性的情報に協調して合奏するシステムの構築に取り組んできたが,演奏者に相当の技量と知識を要求するものであった.
そこで初心者でもセッションに参加できるように,音楽の構成に注目し,フレーズの組み合わせを変化させることで演奏を行うツールとしてのプロトタイプシステムの構築に取り組んだ.

2. 音楽の構成に注目したセッションシステム
従来のシステムでは,自由に演奏できる能力を求められた事が,逆に一般の人にとっての敷居を高くする原因となった.そこで,演奏者はあらかじめ用意されたフレーズの構成を変化させることで,音楽の雰囲気を変えられるような方法を導入した.演奏できなくても音楽を聴いたときの好みや気分の変化は誰にでもあり,限られた範囲内であってもその中で曲の展開を考え音楽を作り出すといった「感性」にターゲットを絞れば,演奏の自由度が下がる代わりにユーザの満足度を高めることができる.そこで本研究では,ユーザの満足度を評価基準として,上記の考え方に基づいたシステムを構築することにした.
また,人間の演奏に協調して他の楽器を担当するエージェントに4種類の「性格」を与え,自律性の向上を試みた.具体的には,あまのじゃく,従順,きまじめ,きまぐれの4タイプで,例えばあまのじゃくタイプは,演奏者の弾くフレーズのイメージと異なるイメージのフレーズを挿入する,といったように,それぞれの性格によって異なった応答を実現し,エンジョイアビリティの比較を行った.

3. システムの概要
本研究のシステムはそれぞれの楽器を担当するエージェントからなるが,それらは初心者の演奏をサポートする基本応答エージェントと前述した性格を付与されたエージェントとに分けられる. エージェントは外部から演奏情報や制御情報を受け取り,今どのようにフレーズが組み合わせられているか,外部の演奏が時間的にどのように変化しているかなどを理解し,それに応じて自分が発声するフレーズの決定を行う.外部の演奏が盛り上ったら,同時に盛り上った演奏を行うのが基本応答となっているが,その応答の仕方に性格付けを行い,演奏にバリエーションをもたせた.

4. 評価実験と結果
 被験者にシステムを実際に使って演奏してもらったところ,基本応答エージェントだけの場合でも「初見でもわかりやすい」,「意図通りに弾ける」,「音楽のジャンルが適当で楽しい」という点で高い評価を得,従来のシステムと比較してその有用性が示せた.またエージェントに性格を付与した場合には,楽しさ,興味の持続度,即興のしやすさなどが増し,より面白いシステムとなることがわかった.さらにどの性格が好みなのか比較し順番に並べてもらったところ,被験者によって好みの性格が大きく異なることがわかった.さらに性格を時間変化させたところ,よりその効果が高まった.

5. まとめ
音楽の構成に注目した演奏システムを構築し,初心者でも演奏を楽しめることを確認した.また単純であっても演奏者によって個性のある音楽が生まれ,限定された枠の中の感性を扱うことの妥当性が示された.またエージェントに性格を付与することで,人間の演奏に盲従するだけでない意外性や新鮮さが生まれ,演奏の幅を広げることができた.
一方,システムに慣れてくると飽きが早くくることや,複数の人間が異なった楽器を同時に演奏している場合の感性協調モデルなどについて検討が必要であることも明らかとなったので,今後取り組みたい.