2000年度修士論文概要

学籍番号 90169176 所属研究室 西田研
氏名 山 崎   忍
タイトル 意図と状況の乖離に注目した意思決定支援インタフェースの評価
1 はじめに

 大規模災害のような複雑で状況変化が激しい問題に対処する際は,適切な部署が適切なタイミングで適切な処置をとる必要がある.
 近年,ネットワークの普及で情報が大量かつ広域に分散している場合でも,リアルタイムに意思決定支援することも可能となってきた. また,大規模災害に対処する組織は階層型である場合が多く,階層型協調作業支援も望まれる.
 本研究の目的は,これまでに本研究室で開発された,リアルタイム意思決定支援のための,「意図と状況の乖離に注目した意思決定支援インタフェース」を広域火災消火作業に適用し,意思決定支援の効果を評価することである.

2 本研究の支援について

 「意思決定支援インタフェース」は,システム操作者が考える「意図」と現場の「状況」とをそれぞれグラフ化しコンピュータ上に可視化することで,緊急時においては気付きづらい「意図」と「状況」の隔たりをインタフェース操作者に把握させようというねらいで構築されている.例えば,最初に考えた「意図」と同じように「状況」が進めば,それは自分の意図通りの問題解決ができていることを示し,何か予期しない状況が発生した場合は「意図」と「状況」が乖離し,意図変更のきっかけとなる.また,階層構造で意図を見せあいながら,問題解決を行う.

3 評価実験
 
 「意思決定支援インタフェース」によって協調作業を行い,リアルタイム意思決定支援する事ができるかを,次のような項目においてインタフェースあり・なしで評価する.
 1)コミュニケーションの質
 2) 問題解決時間
 1)コミュニケーションの質とは様々な側面があり,一概に評価してしまうことは非常に難しい.そこで,実験中の行動観察や聞き取り調査で定性的な性質を明らかにする.
 2)は意図状況の乖離を発見し,意思決定支援の効果をはかる目的であり,定量的評価を行う.
 実験課題は,上位1人,下位2人の階層組織に広域火災の消火活動を行う.途中,爆発などにより,消火戦略(意図)の変更を余儀なくさせる問題になっている.これを再現するため3台のコンピュータで上位層を1つ,下位層を2つとし,インタフェースにより,お互いの意図を見せ合いながら問題解決を行う.

4 定性的評価
 
 まず定性的な評価を行うために,様々な難易度で問題解決を行ったところ,「意図と状況の乖離をいち早く認識すること」,「他階層が意図を変更したタイミング」や,「他階層との意図の違い」にはリアルタイムで気付くことが可能であった.しかし,問題点として,作業対象が消火活動であるためにインタフェース操作にある程度の習熟を必要とし,迅速な消火活動が難しかった.さらに,難易度が高い問題の場合,消火戦略の良し悪しが消火時間に大きな影響を与えることが分かった.

5 定量的評価

 この実験では「問題解決時間」と「初期意図を変更完了するまでの時間」を計測することとした(表1).後者は,階層間で意図と状況の乖離に気付いて意図変更にフィードバックできる効果を見るためのものである.被験者は5組(15人),計った2項目の時間をそれぞれ平均する.難易度に関しては戦略の良し悪しの影響が少ないように,一回の戦略変更で解決できる問題とした.

表1: 問題解決時間
  インタフェースあり   インタフェースなし
Pattern 1 127.4(54)    136.6(56.4)
Pattern 2 123(55.6)    118(52.4)
Pattern 3 113.8(47.75)    114.5(52.75)
  ※ 1 ( )内は初期意図変更までの時間
  ※ 2 単位はすべてSecond

 実験結果は平均時間を出しているが,個人差は非常に大きい.ただし,時間が短くならない理由としては,意図の良し悪しの影響が非常に大きいこと,意図と状況の乖離に気付くタイミングは早くなるが,変更作業に手間取ること,インタフェースの操作性が悪いことなどが考えられる.

6 結論

  評価実験の結果,本インタフェースによって意図と状況の乖離をいち早く認識できるようになっていた.しかし,作業時の操作性が障害となり,問題解決時間や意図変更までの時間の短縮には反映されなかった.今後は,インタフェースの操作性を改良し,協調作業効率の改善を目指す.