2000年度修士論文概要

学籍番号 90169017 所属研究室 谷内田研
氏名 伊 藤 竜之介
タイトル 照明変動と影の影響を抑えた移動物体の検出
1 はじめに
 屋外において移動物体の検出を安定に行うためには、明るさの変動に対しロバスト であること、移動物体とその影を正確に分離することが重要である。奥村らはこれらの問題を同時に解決できる、影を考慮した背景画像のモデル化の手 法[1]を提案した。この手法では、入力画像の背景部分を使い順次処理を行うことを考え、UD分解フ ィルタを利用した繰り返し演算によって背景画像を作成する。これは動画像から背景 成分画像を求めるのに適しているからである。ここで、UD分解フィルタの利用を考 えた場合、初期値として与えられる背景画像が必要となるが、奥村らの手法ではこの 点について十分述べられていなかった。
 本研究では奥村らの手法で不十分であった、この背景画像の初期値作成方法を提案し、実際に屋外を歩く人物を撮影した動画像に適用した実験の結果を報告する。

2 影を考慮した背景画像のモデル化
 簡単化のため光源は太陽だけとし、観測対象は全天空光(太陽光の大気による散乱 光)と太陽直射光によって照らされているとする。
 これにより背景は全天空光成分からなる画像と太陽直射光成分からなる画像を使って表現できる。そこでこれらの画像を背景の成分画像と呼ぶことにする。奥村らはUD分解フィルタを利用した繰り返し演算によって、この背景の成分画像を作成した。この方法は観測画像の背景部分を使って順次処理ができるため、動画像からの背景の成分画像を求めるのに適しているからである。しかし、このUD分解フィルタを用いるには初期値としての背景成分画像が必要である。

3 本手法の推定方法
 初期背景成分画像の作成は各ピクセルについて行う。過去数フレーム(ピクセルにより異なる)間でRGB成分それぞれについての中央値と、輝度値の最大・最小値を利用した背景の作成方法を用いた。
 ここで、観測対象が全天空光によってのみ照らされているとき、すなわち雲が太陽光を遮っている場合でもカメラの感度が調節されていれば観測画像にはある程度の明るさがあり真っ暗になるとは考えづらい。また、太陽直射光の減衰がない場合でも、観測画像が眩しすぎる程明るくなるものではないと考える。これはカメラのダイナミックレンジが十分に広いことを仮定している。しかし、実際のカメラにおいては、暗い部分は暗電流によるノイズによって十分な量子化精度が得られず、カメラのダイナミックレンジはそれほど広くなく鏡面反射によりセンサが飽和することなどから、初 期推定値に上限下限を設定する。具体的には、各ピクセルのRGB成分それぞれについて、最初の20フレーム間の中央値を計算して画像を作成し、この画像の各RGB成分毎にヒストグラムを作成、これをもとに上限下限値を設定して背景の成分画像を作成した。

4 実験結果
 観測した動画像に本手法を適用し、移動物体の影は検出せずに人物領域のみ抽出できることを確認した。

5 結論
 本研究では、背景画像の初期値作成手法について提案し、実際に屋外を歩く人物を撮影した動画像に対して実験を行った。そして実験の結果、奥村らの手法で作成方法が十分述べられていなかった初期背景推定方法について、本手法がUD分解フィルタを用いた処理を行う上で有効であることを確認した。今後は、
・ 人が通り過ぎた後
     背景成分の推測に失敗することへの対処
・ 推測値の上限下限設定の自動化
・ 木の葉の揺れのような周期的な色の変動への対応
を考えていく必要がある。

参考文献
 [1] 奥村晃広、岩井儀雄、谷内田正彦:屋外における移動物体の検出 -照明変動
と影への対策-,MIRU2000 画像の認識・理解シンポジウム講演論文集
,pp.307-312(2000)