2000年度修士論文概要

学籍番号 90159151 所属研究室 溝口研
氏名 松 田   潤
タイトル オントロジーに基づく人的資源開発プラン作成支援システム
1.はじめに
 近年,人的資源の重要性に対する認識が深まるとともに,情報基盤を利用した企業教育・訓練へのニーズがインターネットの普及・メディア技術の発展とあいまって高まっている。我々はそのようなニーズに応え,学習コンテンツを共有・再利用・品質保証といった合理的な生産プロセスに載せるために,オントロジー工学に基づく人的資源開発プラン作成支援システムの設計を行っている。

2.人的資源開発モデル
 本研究は産業能率大学との共同で検討した人的資源開発(HRD:Human Resource Development)のビジネスプロセスモデルを基盤としている。この中で,企業の製品の顧客(Customer)にとっての多角的視点(Multiple)からの有用性(Utility)を説明する「MUCモデル」が中心的な役割を担っている。本研究では,顧客には教育ニーズを持っている企業の顧客担当者,学習者,学習コンテンツ作成者を,製品には学習コンテンツが対応する。MUCモデルは「学習コンテンツがどのように企業に有用なのか?」を説明する図式である。そのHRD版MUCモデルの表現図式の作成支援を通じてHRDプラン作成の知的支援の枠組みを構築しようと考えている。

3.オントロジー構築
本研究では,共通語彙・概念(オントロジー)を構築し,その内容を明確にするためのHRDの基盤的な学習内容であるコンピテンシー(CMP)オントロジーの構築の作業を行った。コンピテンシーとは,「人のパフォーマンスを生み出すための根源的な能力」であり,企業の競争力の源となる人材を特長づける概念として、企業教育の分野で注目を集めている概念である。この他に,MUCモデルの了解性を高めるためのオントロジー(MUCオントロジー)を構築する作業を行った。

4.システムの概要
プラン作成支援の目的は教育対象の企業のニーズに適した学習コンテンツを合理的に導出することを支援することにある。本システムはHRDプラン(HRD版MUCモデル)作成支援を基本機能とし,それに加えて作成されたプランの蓄積・再利用を促進するための諸機能を備えている。また,学習オブジェクトメタデータの標準化規格であるLOM(Learning Object Metadata)の枠組みを利用し,コンテンツの再利用を促進することを目指している。再利用性を高めるためには,ニーズや学習内容を表現する語彙に対する共通理解が必要である。本システム(MucMaker)の機能は以下の3つに大別される。
@オントロジーに基づく語彙・概念の提供
Aドキュメントの検索・登録
B学習コンテンツデザイン支援
本システムは,ユーザのHRDに関する知識の表出を可能にし,データベースから学習オブジェクトや事例を提供し,計算機上でモデル実現を支援する。
ユーザは,オントロジーで提供される語彙を利用してMUCモデルをMucMakerのインタフェース上で作成する。

5.結論
 本研究では,HRDプラン作成支援システムMucMakerの設計を行った。今後の課題として,実際のユーザに対して本システムをシナリオごとに適用し,機能の有効性について検討する必要がある。また,コンテンツ設計の再利用性向上の基盤作りのために,コンテンツ設計の上流工程を視野に入れ,HRD関係者に広く同意の得られる概念定義・規約をオントロジー的手法で検討する必要がある。