2000年度修士論文概要

学籍番号 90159092 所属研究室 藤井研
氏名 鈴 木 啓 太
タイトル 半導体製造プロセスにおけるウェハ温度の多変数制御系設計
1.はじめに

半導体製造工程においては,ウェハプロセス側からの要求として,単位時間当たりの処理枚数の増加およびウェハの面内均熱性の保持が挙げられる.しかし,この熱プロセスは温度の変化幅が大きければ大きいほど非線形性が強く現れる.
この熱プロセスにおいて,ウェハ面内の温度勾配が設定値からはなれていると,結果として不良なウェハが生成され,それに応じて生成される膜にも同様な厚みムラが発生する.このようなムラは好ましくなく,可能な限りこれを抑えることが望ましい.また,アクチェータの能力を可能な限り発揮できる制御を行うことができれば,目標温度への到達時間が早くなり,ウェハ製造の効率化につながる.本研究では,ウェハ面内の温度勾配を自由に設定でき,さらに面内温度の均熱性を考慮した制御系を設計することで,この要求を満たす.


2.準備

本研究では非線形制御にウィナーモデルを採用している.ウィナーモデルは動的なな線形部と生的な非線形部から構成されており、実際、文献[1]などの同定結果から非線形部が静的であることがわかっている。よって、動的な線形部の出力を制御できれば,非線形部の出力は制御できる.その動的な線形部の制御をさまざまな手法を用いて行い,制御性能(速応性と均熱性)の改善をはかった.(速応性に関しては「150秒で598℃への到達」を指標としている.)ただし,プラントの入力に制限があるため,この入力制限に注意して設計を行わなければならない.また,出力応答のオーバーシュートは許容できない.


3.制御構造に着目した性能改善

動的な線形部の制御法として,従来のILQ設計法,フィードフォワードつきILQ設計法(FFILQ)(文献[3]),および速応性と均熱性を考慮した評価関数に基づくLQ制御法を用いて性能改善をはかった.ILQ法は非干渉化された目標値応答特性を指定でき,設計コストを軽減できる.設計の容易さと扱い易さからこの設計法を選択した.また,FFILQ法はILQ法を拡張したもので,自由パラメータをうまく活用し目標値応答の速応性改善を目指している.LQ制御法ではその評価関数で速応性と均熱性を陽に扱うことで最適な制御系を構成することを目指している.


4.参照入力に着目した応答改善

参照入力がステップの場合には立上り時の急速な出力温度上昇に伴い,入力パワーが入力制限にかかりやすい。このため参照入力の形に注目した(文献[2]).具体的には、ランプ入力とステップ入力の切替え(ランプ),一次遅れ応答(一次遅れ),5次多項式で近似したランプ入力(ステップ)の3通りの参照入力で設計して性能改善をはかった.なお各手法括弧内は、それぞれで用いた内部モデルの形である。


5.結論

シミュレーション結果より、出力応答の改善を達成するためには,制御手法としてILQ法(FFILQも含めて),一次遅れ参照入力を用いた場合が有効である.速応性に関する指標として150秒における温度が598℃とあったが,本研究では130秒で598℃を実現できている.均熱性に関しては初期値の違いから初期温度差が大きくなっているが,問題となる目標温度付近では許容できる範囲にとどまっている.ゆえに,目標応答の改善という本研究の目的はある程度達成できたといえる.

今後の課題としては,参照入力が5次多項式の場合に対応した内部モデルを構成することと、非線形部を含めた制御系全体のロバスト性の保証などがある.



参考文献

[1].田・藤井,「ウィナー型非線形システム同定とその熱プロセスシステム同定への応用」第22回 Dynamic System Theory シンポジウム pp.107-110 1999
[2].黒江・阿部・藤井,「参照入力を一般化したILQ最適サーボ系設計法」計測自動制御学会論文集,Vol.32, No.4, 539/546(1996)
[3].酒井・藤井,「フィードフォワード側の自由パラメータを活用した
ILQ設計法の拡張」(投稿中)