2000年度修士論文概要

学籍番号 90139184 所属研究室 溝口研
氏名 吉 川 真理子
タイトル 機能モデル記述のための機能オントロジーの実装
1.はじめに
人工物の設計や診断,説明生成などのタスクにおいては物理的な状態の変化を表す振舞いと共に設計者の意図を表す機能の概念が重要な役割を担っている.そこで筆者の所属する研究室では振舞いと機能の概念について考察し,機能モデル表現言語FBRLを開発した.FBRLでは機能は目標のもとに振舞いを解釈した結果であると捉え,振舞いに解釈情報を付け加えることで対象モデルの機能を記述することを提案している.また知識の記述方法の研究としてオントロジーの記述環境「法造」の開発も行っている.        
本研究では振舞いと機能についての考察内容を宣言的に記述することを目的として,「法造」を用いて機能オントロジーを実装した.それにより計算機によってモデル記述がガイドされ,対象の機能モデルに適切な機能概念が自動的にマップされることをめざす.

2.機能オントロジーの実装
機能オントロジー構築と利用のスナップを図1に示す.機能オントロジーはFBRLの対象モデル表現クラスの定義と,部品の果たす一般的な機能を表す機能概念クラスの体系から構成される.各概念の構成要素である部分概念にクラス制約を課し,部分概念間に成り立つ制約を計算機理解可能な公理として厳密に記述した.
例えば部品の入出力物間に原料-生成物関係があることを表現する「MP-Relationクラス」は構成要素として「原料」と「生成物」の役割の対象物を持つことを記述し,「原料と生成物は異なる」「原料は部品の入口ポートにある」「生成物は部品の出口ポートにある」といった公理を記述することで定義する.
また,機能概念は部品の振舞いと解釈情報を部分概念とし,その間の関係によって定義される.例えば「通す」という機能概念の定義は,「注目する物質が媒体であり注目する流れは1つの物質が入口から出口へ移動していること」である.「注目する物質」は解釈情報の部分概念でありその値が""媒体""である.「注目する流れ」は振舞いと解釈情報から決まるのでそれらについての関係式が公理として「通す」の公理パネルにかかれている.

3.モデル記述
 実装した機能オントロジーを用いて加熱炉や常圧蒸留塔から成る石油精製システムのモデルを記述した.対象モデル表現クラスの制約と公理にしたがって値を埋めてゆく.必要なクラスのインスタンスを書いた後にモデルチェックを行うと,公理に違反のある場合はエラー表示が返される.また""常圧蒸留塔の振舞い""と""対象物の純度の変化に注目する解釈情報""のセットについて機能概念の公理を適用すると,この場合に果たされている機能概念として「純度を上げる」が導出された.

4.結論
本研究で実装した機能オントロジーによって簡単にモデルを記述し,振舞いと解釈情報の内容に応じて該当する機能概念を同定することができるようになった.
 今後の課題はモデルが扱うことのできる対象をさらに広げてゆくことである.今まで扱っていなかった「押す」「回転する」といった機構系の人工物で認識される機能概念についても考察し定義してゆく予定である.