ハイパーメディアにおける学習履歴の構造化支援

豊田研究室  伊藤 博朗

1.はじめに

ハイパーメディアは,個々の学習項目(ノード)と,項目間を有機的につなぐリンク からなる情報提供メディアである.このハイパーメディアを学習に使うことにより, ユーザは自分なりの順序で情報を得ることができる(構成的学習).また,それらを 構成し直すことにより,高い学習効果をもたらすものと期待されている.しかしハイ パーメディアは複雑な構造を持ち,また莫大な量の情報を提供するため,ハイパーメ ディアを用いた学習は一般に難しいと考えられている.本研究ではハイパーメディア での自主的かつ構成的な学習を支援するために,ハイパーメディアでの学習過程をモ デル化し,それによりユーザの知識の再構成を促す支援の枠組みを提案する.また, この枠組みに従って学習を行えるシステムを構築する.特に,知識の再構成を支援す るため,学習履歴を構造化する方法を提案する.そして本システムを使用することに より,ハイパーメディアでの学習における知識の再構成が促進されることを確認する.

2. ハイパーメディアにおける学習

大量の情報が複雑に絡み合っているハイパーメディアから,必要な情報を得て,自分 なりの学習を進めることは非常に難しいことである.これは「行き詰まりの問題」と して広く知られている. 「行き詰まりの問題」を解決するためには,学習過程(何を,なぜ学習してきたの か)を再考させ,ハイパーメディアから得られた知識を見直す機会を与えることが必 要不可欠と考える.

3. ハイパーメディアの学習支援

そこで,学習から得られた知識に対する再考を促すには,学習過程についての考察を 深め,知識を積み上げていく際の学習者の認知活動を正しく捉える必要がある.その ため本研究では,学習過程をモデル化した.ハイパーメディアにおける学習では次の ようなことがしばしば見受けられる.
(1) 学習目標を達成するために,局所的に細かい目標が立てられる(探究目標).
(2) 探究目標を達成するために,いくらかのページを辿らなければならないことがある.
(3) 同時に複数の探究目標を立てることがある.

以上のことを踏まえて,学習過程を,基本探究プロセスを単位としてモデル化した. 基本探究プロセスとは,探究目標が立てられるノード(始点ノード)から,達成され るノード(終点ノード)までの過程を表す. このモデルをもとに,知識の再考に対する支援方法を検討し,支援システムを開発し た.

4. 支援システム

本システムでは,図1において学習履歴を,探究目標,基本探究プロセスを単位とし て管理,可視化する.また,それらを構造化し知識構造として図2に可視化する.こ れによりユーザは,可視化された知識構造をさらに再配置することもできる.


図1 : 履歴可視化システム  図2 : 知識構造可視化画面


5. 実験

本システムを評価するため,支援の有・無の2条件のもとで,実際にハイパーメディ アでの学習を進めるという実験を行った.その結果,知識構造を可視化することが, 学習履歴を再考することに有益であるという肯定的な意見が多く得られた.本システ ムが,学習における知識の再構成を促進するということが確認された.

6. 結論

ハイパーメディアを用いた学習では,情報の取捨選択,知識の再構成を学習者自身が 行い,かつ学習過程を自ら管理する必要がある.本研究では特に,こうした知識の再 構成の遂行を支援する手法を考えた.本手法の特徴は,学習履歴を構造化して,学習 者が得たと考えられる知識構造を可視化することにある.また本研究では,本手法の 有効性についても実験を通して確認した.