レーザスキャナによる運動計測における複数運動体の高速同定アルゴリズム
和木 康哲
はじめに

よりよいスポーツトレーニングを行うために、広い測定範囲を持ち、運動後すぐにプ レイヤーに計測分析結果を与えることのできる運動計測システムが求められている。こ のような要求を満たすため、レーザビームスキャナによる実時間運動計測システムを開 発中である。
このシステムでは、測定対象に光再帰性の高い反射材を貼付し、360Hzで走査される スリット状のレーザービームによる再帰光を光検出器で検出する。そして、あらかじめ 保存されている測定対象からの再帰波形のデータをテンプレート波形とし、相関値を計 算することで測定対象からの信号の再帰時刻を算出し、水平方向の位置を計測する。鉛 直方向については1次元PSDでの再帰光の結像位置から位置情報を得ることができる。こ の一連の処理は専用の信号処理装置により行われ、1計測周期である2778μs内に処理が 行われる。
本研究では、再帰時刻を求める際の再帰波形のピーク探索部分を見直し、処理の効率 化を図った同定アルゴリズムを考案した。

同定アルゴリズム

測定対象からの再帰波形が持つ特徴の一つとして、波形が単調増加してピークを迎え、 再び単調減少していくことが挙げられる。この特徴を用いて、処理時間短縮のため、光 強度があるしきい値を超えたもののみについて、ローカルな部分で単調増加してできた ピークを探索し、その波形がピークから単調減少しているかどうか、しきい値を超えて いる区間の時間幅がテンプレート波形の長さ以内かどうかを調べ、測定対象以外からの 再帰波形を除去する。さらに、測定対象の波形はテンプレート波形との相関値が高いこ とを用いて、測定対象からの波形のみを抽出し、それらの波形について位置情報を得る ための演算を行う。

実験結果と考察

事前に得たデータからのシミュレーションと、複数の静止物体を実時間で計測する実 験を行った。これらの実験によって、1回の走査時間(2778μs)中に最大6個の測定対象の 位置情報を取得することができた。
和出力信号のローカルな部分のピークの探索では、処理時間を短縮するために、探索 を3点おきに行っているが、これを4点おきにして実験を行うと、最大7個まで測定可能で あった。
探索する間隔を大きくすることにより、DSP での演算時間が短縮でき、測定可能な対 象の個数が増えるが、弊害として、しきい値の設定が適切でない場合、測定対象からの 再帰波形を見落としてしまう可能性がある。さらに、測定対象同士が近づいたときの対 策としてテンプレートの幅を狭くする必要性に迫られたときのことを考慮すると、失敗 の可能性はさらに高まってしまう。この問題解決については今後の課題である。