DSPを用いた磁気浮上実験支援環境の構築
豊田 靖
1. はじめに

磁気浮上を利用した非接触型運搬システムは,摩擦による熱,騒音,塵の発 生などの問題を解決できるので,近年研究が盛んである.実用例としては,発 塵が問題になる半導体工場におけるクリーンルーム内の自動運送システムがあ る.本研究室では,以前からY字型鉄片を利用した3入力3出力の非接触型磁気 浮上制御の研究が行われてきており,ILQ設計法や,H無限大設計法による磁気 浮上制御に成功してきた.
周知の通りこの磁気浮上制御には,高速でかつ高精度なリアルタイム処理が 必須である.このとき計算機の演算速度が低速であれば,制御に必要なコント ローラの計算が間に合わず,十分なサンプリング間隔で制御を行うことができ ない.事実H無限大設計法によるコントローラは高次になる傾向が見られ,高 速な計算機は必要不可欠である.そのために本研究室では,高速演算を実現す るためのCPUとしてトランスピュータを利用してきたが,これらのシステムは 研究開始当初から利用されてきたものであり,近年の計算機の急速な発達など もあって,システムの再構築が必要な時期に来ている.そこで,本研究の目的 は,新しくDSP(Digital Signal Processor)を導入することによって,システ ムの再構築をはかることである.従来のシステムはCUI環境であったこともあ り,ユーザーインタフェースはあまり考慮されてこなかったと思われる.よっ て,それらを考慮した,より分かりやすく,使いやすい支援環境を構築するこ とが本研究の目的である.

2. DSPの概要

DSPとは,ディジタル信号のリアルタイム処理をサポートする専用のハード ウェアで,高速で高精度な計算が可能であり,また高速な入出力インタフェー スを内蔵しているのが特徴である.これは単体で動作させるのではなく,ホス トコンピュータを介して制御される.ここでの,ホストコンピュータの役割は, 主に以下のようなものである. DSPを利用するには,DSP上で実行される実際の実験装置の制御プログラムと, ホストコンピュータで実行されるDSP制御用のプログラムの2つの異なるプログ ラムが必要になる.この2つのプログラムはそれぞれ独立して動作する.DSPの 動作の制御は,ホストコンピュータがDSPのメモリ領域にアクセスすることに よって実現されるので,この相互リンクを考慮してプログラムを作成する必要 がある.ここで、ユーザーは直接DSPを制御することはできないので,ユーザ ーインタフェースの観点からDSPの動作を意識させないプログラムを作成する ように心がけた.

3. まとめ

ILQ設計法によるコントローラを用いたY字型鉄片の磁気浮上制御が成功した ことにより,DSPの導入という一応の目的は果たされた.この磁気浮上実験装 置は,例えば振動抑制を目的としたコントローラ設計などの,理論の確認とし ても利用されるので,本磁気浮上を主として研究していない他の研究者にとっ ても,利用しやすい環境を構築する必要がある.今回の研究では,ウインドウ プログラムを作成するだけの知識が不足していたので,ユーザーインタフェー スに関しては,まだまだ改善していく必要があるだろう.今後の課題としては, ウインドウプログラムを用いたGUI環境を利用することにより,ユーザーイン タフェースを考慮したシステムとなるような,プログラムを作成することがあ げられる.