人間と機械による共同作業支援に対する一手法
手塚 健
1・はじめに

計算機内のエージェント間の通信のみを主体とするマルチエージェントシステム(M AS)に対して、本研究では人間もエージェントに含めたMASの枠組みを提案す る。従来のMASでは、大規模問題を副問題に分割し、各エージェントが自分の分野 の副問題を扱っていた。しかし、副問題が抽象的で、その解決方法が具体的に定義し にくいものであるときには、エージェントに向いていない。そこで、エージェントよ りも柔軟性と直観性に優れた人間が加わり、抽象的な副問題を設計者が扱うことに し、それによって、設計者・エージェントのそれぞれの特性を生かし、人間---機械 協調系としての問題解決システムの有効性を高めることを目指す。ここでは例題とし て人工衛星設計を取り上げ、この枠組みの適用例を報告する。

2・人間が参加するMASの枠組み

従来のMASにおいては人間は計算機のエージェントに対して問題の定義と必要な データを与えることに焦点が当てられてきたが、エージェントがどのように通信し、 結論を導き出すかについては関わることは、あまり扱われてこなかった。そこで、本 研究では新たに人間もエージェントにみなしたMASを提唱する。この枠組みでは人 間は自分が担当する副問題に対する知識を有する。そして、他のエージェントと協調 することにより、より自然に全体の問題を解決することを目指す。また、MAS自体 が本来の人間同士の協調モデルに基づいている為、人間にも問題の解決プロセスが理 解しやすい。さらに、自分の要求に対するエージェントの反応を人間自身が理解する ことによって、自分の分野の副問題に対する判断がより容易になることが期待され る。
人間を副問題の問題解決に明示的に含めるMASによる協調問題解決の枠組みは、 従来のMASに比べても人間という柔軟性のあるエージェントが加わる為に他のエー ジェントの反応も柔軟になり、ひいては全体の問題の解もより短時間でより良いもの が得られると考えられる。

3・システムの実装

本研究では、複雑な問題解決の例として小型人工衛星の自動設計を扱う。人工衛星 設計を制約・要求に基づいて構造設計、熱設計、通信設計に分割し、通信設計を人間 (設計者)が、他の二つをエージェントが担当する。

4・まとめ

本研究では人間---機械の共同作業にを支援する為に、設計者が参加可能なMASに よる協調の枠組みを提案した。エージェントの豊富なコンピュータ資源と設計者の柔 軟性のある判断力を有効に用いることで、MASの協調をより自然なものにすること ができる。しかし、設計者がエージェントの反応を効果的に把握し、 また、設計者 の意図を明確にエージェントに伝える為には設計者とエージェントを結ぶ適切なイン タフェースが重要となる。よって、協調プロセスを可視化するインタフェースの開発 が課題としてあげられる。