磁気浮上系の振動抑制を目的とした周波数整形ILQコントローラの設計
- 最小次元観測器を用いた場合 -

中村 恵子
[研究の目的]

ILQ設計法の特徴は、サーボ系において設計パラメータΣ->∞としたときの参照 入力 r から制御出力 y までの漸近伝達関数 Gyr∞(s) を指定できるところにあ る。オブザーバを用いたときも Gyr∞(s) は変化しないので、自由度の大きい一 般化オブザーバを用いてその自由度を利用することによって 観測ノイズ n から 出力 y までの伝達関数 Gyn∞(s)も指定できる。 磁気浮上系においては、 Gyn∞(s) にノッチフィルタ特性を持たせてスピルオーバを抑制することに成功 している。
一般化オブザーバは全次元オブザーバに出力誤差に基づいた修正を加えた構成 になっているが、 磁気浮上系のような不安定系ではとくに、最小次元オブザー バより全次元オブザーバの方が設計パラメータが多いので設計が難しい。この研 究では、最小次元オブザーバを基本として自由度を付加することによって、さら に低次元で設計の簡単なコントローラを設計することをめざす。

[最小次元オブザーバの自由度]

最小次元オブザーバでは出力を推定しないため出力誤差の代わりに、直接推定 できない状態 Fx とその推定値 ω との誤差を用いて自由度を増やす。その推定 誤差はどんな場合でも得られるわけではないが、制御対象を磁気浮上系に限定す ると推定値 ω と出力 y に基づいて修正を加えることができる。最小次元オブ ザーバと自由度 Q(s) を用いたILQサーボ系では、レギュレータとオブザーバ、 Q(s) の極が分離しているため、それぞれの極を安定に選ぶと閉ループ系が安定 になる。ただし、一般化オブザーバの場合は Q(s)は安定かつプロパーであるが、 この場合は Q(s) は安定かつ厳密にプロパーである。

[制御系の設計]

まず、ILQ設計法によって Gyr∞(s) が希望の伝達関数となるように 設計パラ メータKC と KF を決定する。次にGyn∞(s) を求め、その式から Q(s) を逆算 して、Q(s) は安定かつ厳密にプロパーという条件から指定可能な Gyn∞(s) の クラスを調べる。そしてその範囲内で Gyn∞(s) を指定し、オブザーバのパラメー タと Q(s) を求める。その際、 Gyn∞(s) はできるだけ低次元になるようにする。

[結果]

最小次元オブザーバを基本として自由度を付け加えることによっても、一般化 オブザーバを用いたときと同じコントローラを得ることができた。しかし、目標 としていたコントローラの低次元化と設計の簡単化はできなかった。それは、指 定可能な Gyn∞(s) のクラスが一致し、全次元オブザーバの場合にすでにそのク ラスの中で最低次の Gyn∞(s) が選ばれていたからである。今後、今回得られた 最小次元オブザーバを基本としたコントローラとすでに得られている一般化オブ ザーバを用いたコントローラとの構造の比較を行いたい。