動的環境下におけるアクティブカメラを用いた色抽出
丸尾 二郎
近年、集積回路技術の発展によりコンピュータは飛躍的な発展を遂げ、我々の身の回 りにはコンピュータを利用した様々なシステムが開発されている。これらの目的は、 今まで人間が行ってきた行動を代行することである。そしてこのような目的を達成す るには、外界の情報を認知することが大変重要である。人間は視覚、聴覚、嗅覚、味 覚、触覚の五感を持つ。中でも視覚による情報は人間にとって最も複雑かつ有効な入 力情報であり、外界を認知するのに重要な役割を果たしていると考えられる。コンピ ュータが人間の視覚手段を模倣し、機械に自分自身の置かれた環境を認知させ、目的 に応じて行動させる事を研究する分野はコンピュータビジョンと呼ばれる。

コンピュータビジョンに関する研究は現在盛んに行われているが、この中に顔画像に 関する研究や、人物の追跡に関する研究等があり、その中では顔や手といった領域を 切り出すために、肌色の抽出といった処理が行われている。これらの研究では、抽出 された領域を特徴として利用するので、抽出をいかに安定に行えるかが問題である。 しかし、カメラ等のセンサを通して観測される色情報は照明環境などの変動に伴って 大きく変化するため、安定な特徴量として利用することは困難である。そこで、これ らの変動の影響を受けない色抽出のための補正方法を考案する必要がある。補正方法 として、カメラの出力画像を処理する補正が考えられる。しかし、この方法では補正 する前の段階で対象の観測値が計測器であるカメラのダイナミックレンジ内に制限さ れており、レンジ外の観測値の情報は欠落している。したがって、対象の反射光がダ イナミックレンジの外まで広がった画像や、または量子化誤差の影響を大きく受ける ほど小さい値で取り込んだような画像を補正することは意味を成さない。また、最近 のカメラに搭載されている自動露出補正といった機能は、画像全体に対して露出補正 を行っており、特定の色を安定して抽出することに利用することが出来ない。特定の 色を安定に抽出するためには、抽出すべき色領域内の点に関してのみ露出の補正を行 うことが必要である。そうすることで全ての観測値をダイナミックレンジ内に維持で き、領域内の出力が一定に保たれる。その補正には画像の出力を操作するカメラの絞 りとゲインを調節すればよい。

また、これらに関連した研究として、複数の画像を用いる事による多重情報の冗長性 に着目した、多重絞りカラー画像に関する研究がある。しかし、この研究では制御す るパラメータを絞りのみに限定しており、他のパラメータは固定されている。また、 物体色と光源色を推定することで色の恒常性を実現する研究がある。この研究におい ても、より良い推定のためには十分なダイナミックレンジを持ったカメラが必要であ り、本研究を前処理として用いることができる。

こうした背景に基づき、本研究ではカメラの絞りとゲインを調節することができるア クティブカメラを用いて、抽出すべき色領域内の点の露出を補正し、環境の変動に対 し安定した色抽出が可能な手法を提案する。更に、ある特定の環境の変動下における 安定した色抽出を試みる。