視覚メモリの記憶内容の経時的劣化特性と空間位置情報保持機構
大島 繁夫
我々は1度見て記憶した視覚目標の位置にもう1度視線を移すことができる。これは視 覚的に獲得した空間位置情報が脳内のメモリに蓄えられているからと考えられる。現 在、このメモリ機能を説明する2つの仮説がある。
  1. 空間仮説
    ターゲットの位置を体を中心とした空間座標上の位置としてとらえ、その位置に対応し た細胞集団によって位置情報が保持される。
  2. ベクトル仮説
    ターゲットの位置を現在の視線方向からの眼球運動の大きさとしてとらえ(運動誤差)、 常にターゲットの位置までの眼球運動の大きさ(ベクトル)として情報を保持する。
空間仮説はそれまでのモデルでは説明できない様々な心理物理学的な実験結果を説明 するために、まず仮説モデルとしてZee,et al.(1976)らによって提唱された。ベクトル 仮説は神経生理学的な立場から1980年代初頭からJurgens et al.らによって提唱されて きている。我々の研究チームでは過去、神経生理学的な手法では解明できないような脳 のより広範囲な部位における働きを研究してきた。本研究では空間仮説モデル、ベクト ル仮説モデルを想定し検証する事を目的としている。

本研究では2つのモデルを検証するために、目標を一定時間注視する中心視による 方法と、眼は動かさず周辺視して記憶する方法の2つで視覚目標位置を記憶し、様々な 遅延時間後に記憶した位置へもう1度サッカードを行い、それぞれの方法で使用されて いるメモリの劣化の特徴(劣化の時間的経過・目標位置に対する劣化特性の依存性など) の比較を行った。空間仮説では視覚目標の空間的位置に対応した同じ場所の細胞集団に よって空間位置情報が保持されるはずであり、2つの方法の劣化の特徴は同じようなも のとなるはずである。また、劣化の仕方は位置情報を保持する細胞集団の性能によって 違うはずで、位置に関する依存性があると予想される。

以上の実験の結果、同一の空間位置情報に対してそれぞれの空間的位置に対応した同 じ細胞集団で構成されるメモリが使用されている事が分かった。